『遅咲きか、それとも』

最終更新日:2022.11.19


2021年に第4期を迎えた若手社員研修に続き、新たにリーダー層研修を導入した。
「リーダー」について学ぶとともに、業務実務に連動した自身の課題に上司とともにチャレンジするという進め方である。

1期の対象は7名。
34歳~42歳。新卒入社4名中途採用3名。入社8年目~22年目。リーダー初任・再任・一歩手前。
多士済々(たしせいせい)の顔ぶれがそろった。
キャリアも年齢も大きく異なるが、同じタイミングでこの場に立つ。

各位のキャリアには喜怒哀楽があり、とりわけ、怒と哀が現在の彼らをかたち作ったということが、発せられる言葉から伝わった。
入社してからの自分をふりかえる表現に、それぞれの過程があり、歳月があったことがよくわかる。

ちょうどこの世代は、今まさにリーダーとしてチームを率いる、すなわち、最前線で原動力となるメンバーに対してはリーダーとして立ち居ふるまうとともに、上司であるマネジャーたちへはフォロワーとしての関わりを大切にすることを求められている存在。

組織運営の大事な部分をにない、さらに長い目で見ると、次の、その次の幹部候補生ともいえる人材である。
8月3日の第1回目では一人ひとりに頼もしさを感じ、11月と2月に予定する研修とあわせて、どんな変わり身をみせるのかという期待感が高まったのだった。

と、そのとき、729日東京オリンピック女子柔道78kg級で金メダルを獲得した浜田尚里選手の姿が浮かんできた。
立ち技全盛の時代にありながら寝技に光をあてた名手であり、準決勝での腕ひしぎ十字固めが真骨頂ではなかったか。


当時、マスコミにとびかった言葉は「3010カ月にしての初めてのオリンピック」「遅咲きの金メダル」という、どこか使い古された定番のフレーズばかり。

しかし浜田選手は自分のことをどう思っているだろう。
あることをきっかけに寝技に目覚め、その後、多くの戦いを重ねながらロシアのサンボにも成長の糸口を求めた。
そして、その積み重ねが東京五輪であり金メダルであった。
実は、今がまさに、旬の状態にあるのではないかと思ったのだ。

技の切れやスピード、体格、俊敏さに目が向けられる立ち技とは趣が異なる寝技は、相手の力を利用しながらいつの間にか自分の型にひきずりこむという特異性を持つ。
そう考えれば、3年後のパリ五輪も視野に入ってくるだろう。
早いとか遅いとか、一言だけで片付けることはできないのではないかと考えたのだ。


「遅咲き? 今が旬なんだぜ(笑)」というところか。


優勝決定直後にタタミの上で見せた堂々として落ち着いた表情に、その内心があらわれているように感じたのだった。

ひるがえって、リーダー層研修である。
組織運営においては、社員の成長は速いに越したことはない。まさにその通りである。
成長スピードの速い社員が組織を引っ張る、ということもまさにその通り。
でもしかし、中堅と呼ばれるころを超えて旬を迎えたといえる状態になった社員もいるはずである。

社員には、いつでも声がかかったときに手を挙げることのできる状態であるよう整えておいてもらいたいし、固定観念にとらわれず、社員の状態を見極めながら研修に抜擢することもその機会をつくる立場には大切なことだとふりかえる。


 『他人からはまわり道に見えたかもしれないけど、
                    これがオレには一番の近道だったんだよ(ニヤリ)』


20代に目にした、ある格闘家の言葉。
この言葉に触れたときのことを思い出し、30年余りが過ぎた今に、真夏にあらわれた二つの情景を重ね合わせたのだった。
                                    経営管理部 見角勝弘